疾走感のリアル! 「伴走者」浅生鴨
目次
「そうか。だったらわかるだろう。伴走者は選手の目の代わりだし、レース状況を伝えるコーチでもあるわけだ」
「ところが俺について来られる伴走者がいねぇ」内田は投げやりな口調で言った。
夏・マラソン編 より
僕は適当に気ままにランニングとかやっていて、延長線上にマラソンとか走るんだけど、マラソンの伴走者ってやってみたいなって思うことはある。
ただ、聞いた話では伴走者ってかなりの走力がないと難しいらしくって、僕くらいのレベルでは無理っぽい。でも、相手のペースやら状況やらを考えながら走るのってなんだかやりたくてうずうずするんだよね。コーチング的な関心?なのかもしれないけど、この本の中のセリフ「おまえが俺を世界につれていくんだ。俺のパイロットとして」って感じを味わいたいなぁーとかおもう。いや、世界とか無理だけどね。
「泣けた、とは言いたくない。それとはちがうのに、涙がでるのだ。」
このコピーは、糸井重里氏のコピーです。ほぼ日のサイトにもこの本についての対談がありますね。なんか作者とは昔からの知り合いみたいな雰囲気です。作者の「浅生鴨」氏は、震災のときにNHKの公式Twitterなのに独断で情報を流し続けた「NHK_PR」の中の人なんだそうです。僕もリアルタイムで「NHK_PR」見てましたけど、今はNHKを退社されて作家活動とかやられているそうです。「浅生鴨」ってペンネームもNHK時代からのものみたいですね。吉幾三とか中野独人とかと似た感じのペンネームだな。
糸井さんのコピーにもあるように、この本は視覚障害者の人を題材にして「感動話」をつめこんだ本ではないんだよね。「夏・マラソン編」と「冬・スキー編」の2編の物語でこの本はできています。マラソン編もスキー編もどちらも伴走者は元一流選手でそれゆえ伴走者に「成り下がる」ことに躊躇したり葛藤したりする。だけどすこしずつ「視覚障害者の選手+伴走者」というチームスポーツの魅力や大変さに奮闘する…みたいな話かな。
うーーむ。なんか、この本の魅力を少しも伝えてないな。
僕はこの本もの凄くおすすめなんですよ。
一流アスリートの疾走感あふれる文章が凄い!
どちらの物語もスピード競技なので、当然スピードの表現がたくさんでてくるんだけど、読んでいくうちにだんだんスピードアップしていく感じがするんだよね。余計な表現とか心象風景みたいなものがとても少ない。だからカメラ越しに映像をみているように感じるんだよね。とくにスキーのシーンは疾走感がすごくて、あっという間に文章が流れていく感じがするんだよね。
実際に、作者は読者として目が見えない人も想定しているらしい。
だから、文章を通して目が見えない人が体感しているスピード感を感じているような気がしてくるんだな。実際はどうかわからないけど、そんな気がして物語の中に入りこんでしまうんだね。
伴走者としてのあり方。またはコーチ的視点
この本は実際に選手や伴走者を取材して書かれたものなんだけど、それゆえ実際の伴走者としてのあり方が描かれていてとても興味深い。
マラソン編で伴走者が盲目のランナーから「おまえは世界で勝てない。俺と一緒に闘うしかない」みたいなことをいわれるんだけど、例えば、僕が同じことを誰かからいわれるとどう思うだろうか?
結構これは戸惑う言葉なんだよね。
これは、何をいっているのかというと「おまえの頑張っているものをやめて、俺の手伝いをしろ」っていわれているものなんだよね。こういうストレートな言い方をされることはないけど、僕自身今の仕事をやっていて、要するにこういうことを要求されることはよくある。
「あなたの能力を私が成長するために使うのではなくて、私がダイレクトに得をするために使って欲しい」
って感じだね。
僕はそういう場合どうしているかというと、嫌になるまでは、まぁまぁやるけど嫌になったら「やっぱ、無理っす、嫌になったのでやめます」みたいな感じでやめることが多いな。無責任だなー。今あらためて思い返して無責任だなーとか思ったよ。でも最初から責任とかはとりませんから、って言ってるのでいいか。たぶん。
スキー編では、「できないことだけ手伝って下さい。できることは自分でやります」っていわれるシーンがある。
これは、僕は仕事では切り分けてできていると思うな。ってか、わりと意識してやっているよ。
ただ、これは仕事だからできるのであって、もし家族からいわれるとキレると思うな。だって自分の子供から「ねぇ、困ったときだけ助けて。必要なときだけお金ちょうだい。あとは何もいわないでね」とかいわれると殴ると思う(殴ってはイカンが)
スキー編では、ちょっと恋愛っぽい雰囲気もあるんだけど、果たして「できないことだけ手伝って。あとは手伝わないで」っていうカップルがうまくいくのかなーとか考えながら読んだよ。
サポートをすることで何がおこるのか?
誰かはサポートすること、あるいはコーチングするときに「こうすべき。こうしたほうがよい」という教科書的な話はよくあるよね。
でも、そこでリアルに何がおこっているのか?というのが、凄く伝わる小説だとおもう。
僕は人をサポートすることについて「サポートとはXX」みたいな、何かを削ぎ落としてシンプルな言葉にすることが大嫌い。それは削ぎ落とされたものが重要なものであったり、その削ぎ落とす作業そのものがとても辛いものであったり、あるいはそのシンプルな言葉自体がまったく間違って流布されていたりすることがあるので、聞くに堪えないことが多いんだよね。
この物語は、現場で起こっていることが、疾走感とともに読者と共有されていくので、そういうストレスがない。
たぶん、だから 「泣けた、とは言いたくない。それとはちがうのに、涙がでるのだ。」って気持ちになるんだとおもうな。
最後に 凄い朗報です!
なんと、この本の最初に1編「夏・マラソン編」はKindleで無料で読めます!
つまり半分は無料で読めるってことですね。これも、なんか凄いな。
と、いうことでまた次回!
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