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映画「ノマドランド」 過酷で豊かな人生へ

   

目次

 

第93回アカデミー賞受賞おめでとうございます。

ここんとこ、アカデミー賞の受賞作は映画そのものというよりも、映画に込められたメッセージ(それも政治的な)を重視するような傾向がありますよね。

なので、ノミネート作品を見渡してみると、なんとなく「ノマドランド」のような気がしていました…

 

この映画はある種の政治的なメッセージは確かに感じます。

アメリカ社会と個人とのゆれるような関係に、しばし考えさせるシーンもあります。

でも、露骨な政治的なメッセージにならず、映画の美しさのバランスの上で成り立ちながら観せている映画です。

 

すごく大きな盛り上がりシーンなどはないので、家族で観るというより、1人でゆっくり観る映画でしょうね。

 

映画の概要

企業の破たんと共に、長年住み慣れたネバタ州の住居も失ったファーンは、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込んで、〈現代のノマド=遊牧民〉として、季節労働の現場を渡り歩く。

その日、その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流と共に、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく──。

<公式サイトより>

 

この映画には原作があるんだね。


ノマド 漂流する高齢労働者たち

もともとは、この映画の主演女優のフランシス・マクドーマンドが、この本に魅力を感じて映画化権を買って、、、というところからはじまったらしい。

僕は、原作は読んでない。

でも、原作もそのようだけど、単純に「誰かが悪い、何かがひどい、大企業がダメ、政治がよくない」という、わかりやすい批判になっていないところが、逆にこの映画の詩的テイストを、醸し出している所以じゃないかなと思う。

単純なメッセージじゃないところが、この映画を観た後の余韻につながるんだよね。

 

単純ではないメッセージ

主人公の60代女性のファーンは、夫と死別後、住んでいた住居を追われる。

家は、リーマンショックで潰れたその会社の「企業城下町」にあり、会社とともに町そのものもなくなってしまう。

それによって、キャンピングカーによるノマド生活を余儀なくされる、という話。

 

リーマンショックで行き場を失った、ロワーミドルのシニアの話、、、となると、そこでの悲劇や企業社会への批判などが色濃くでるメッセージかと思うと、そうじゃないんだよね。

ファーンのセリフに、「わたしは、ホームレスじゃなくてハウスレスなのよ」というものがある。

これはかつて非常勤で学校の先生をやっていたときの生徒に「先生はホームレスなの?」と聞かれたときの答えなんだよね。

これには「ホームはある」という意志を伝えているはず。

 

ファーンがいうホームとは?

 

それは、亡くなった夫との想い出の品(お気に入りの皿)や、アマゾンの倉庫で働く季節ワーカーの友人たちなのかもしれない。

 

家がないことが、本質的な貧しさなのだろうか。

ファーンは家がなく、お金がないことで、逆に自由や友人、新しい生き方を手にいれる。

もちろん、家がないこと、お金がないことによる過酷さは描かれる。

でも、一方で、アメリカの印象的な景色で、ひとりで静かに過ごす、ある種の豊かさも描かれていく。

家=固定されたもの、、、積み上げていったものが、いつまでも価値をもっているのか、と問われている気がした。

 

僕の受け取ったメッセージ

 

映画の最後で、ファーンがかつて自分が住んでいた街と家を訪れるシーンがある。

その残骸をみて、ファーンが泣く。

説明はなにもないので、解釈は観客に委ねられている。

 

僕は、残骸は過去に積み上げたものの「残骸」であって、それがどんなに愛しいものであっても、今の生きている人生にとってはあまり意味のないものだ、というメッセージに受け取ったんだよね。

 

なぜなら、その後ファーンは夫との想い出の品がつまった、ガレージのモノたちを全部処分してしまう。

 

「過去に手に入れていたものを手放して、今を生きるという選択をすれば、そこには過酷であっても豊かな人生があるよ」

というメッセージに受け取りましたよ。

 

過去に手に入れていたものは、確かに愛しいので、手放していくのは大変。

だけど、ファーンのように、時間をかけてゆっくり「今を生きる」人生をおくることは、できる。

そこに、いつかは自分も舵を切らないといけないのだろうね。

 - 映画 洋画

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